2100年の科学ライフ

正月休みを利用して興味深く読みました。

著者(ミチオ・カク氏)は、「超ひも理論」専門の理論物理学者。科学の普及活動にも熱心でアメリカのTV番組(ディスカバリーチャンネル)にも出演しているようです。ちなみに日系アメリカ人3世だそうです。

世界のトップクラスの科学者300人以上へのインタビューを行い、2100年の科学、及び人々の生活を予想しています。この本が特徴的なことは、
・科学者の視点で描かれており、物理法則に基づいた予測がなされている
・描かれているテクノロジーのプロトタイプは、(実験室レベルではあるが)既に存在している
ということです。どんなに突飛な内容でも、当てずっぽうではなく根拠を元にして予想を立てています。多くの人が未来予測をしていますが、このような視点での予測は希少だと思います。

1)コンピューター、2)人工知能、3)医療、4)ナノテクノロジー、5)エネルギー、6)宇宙旅行、7)富、( 8)人類)の切り口で、
a)近未来(現在〜2030年)、b)世紀の半ば(2030年〜2070年)、c)遠い未来(2070年〜2100年)
の時間軸で予測をしています(図1)。

図1:未来予測のまとめ



※※※
未来予測の各論も興味深いですが、著者の科学や歴史を大きく捉える考え方が面白いと感じました。たとえば「穴居人の原理」。

テクノロジーの予言が必ずしも当たらないのはなぜか?の問いに対する仮説です。
・オフィスはペーパーレス化する
・サイバー観光客が増え、実際に観光に行く人はいなくなる
・自宅でテレビ会議をするようになり、オフィスに行く人はいなくなる
などの予想は昔からなされているようですが、今のところ現実のものとはなっていません。

10万年以上前の原始人(穴居人:けっきょじん)の時代から現代まで、ヒトの遺伝子や脳、人格は大きく変わっていないようです。穴居人は生き抜くために「獲物の証拠」を求めており、その欲求は今にも受け継がれている。そして、現代のテクノロジーと原始的な祖先の欲求がぶつかる時は必ず、原始の欲求が勝利を収めるという仮説です。

電子情報を本能的に疑うので、不要なときでも電子メールやレポートを印刷するためオフィスはペーパーレス化を完全には実現出来ていない、ということです。

コミュニケーションツールは進歩しているけれど、結局実際に会って話をするのが一番良いとか、人はジェスチャーなど非言語的なツールで7割程度?コミュニケーションしている、などと言われるのも穴居人の原理と関連しているのだと思いました。

一方で、オンラインショッピングが浸透し、デパートなど実店舗にも大きな影響を与えているケースもあります。「穴居人の原理」はテクノロジーが浸透する際の抵抗力となるが、必ずしも絶対的なものではない、と捉えました。脳のシナプスは「可塑的」と言われていますが、穴居人と現代人の脳を解析していくと実は違いがあった、などということもあり得るかもしれません。

新たなテクノロジーを浸透させるためには、いかにして「穴居人の原理」を乗り越える仕組みを準備するか、が重要になるのだと思いました。


※※※
またテクノロジー進化の4段階の法則、というものも興味深いです(図2)。テクノロジーが発明された第一段階から、個人用に普及しはじめる第二段階、大幅なコストダウンで大衆に普及する第三段階、装飾的な使われ方となる第四段階を経る過程を整理しています。

インタビューなど多くのインプットを元に、著者が深い洞察をされているのがよく分かる興味深い本でした。


図2:テクノロジーの四段階

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