テクノロジーとイノベーション

「テクノロジーイノベーション」という本を読みました。テクノロジーとは何か?ということを理論的に考察し、テクノロジーの構造と進化、経済との関係性などを議論しています。


本の帯に「われわれは彼の理論にもとづいてJavaを投入した(E・シュミット;Google会長)」と書かれていますが、抽象度が高い議論で企業の研究開発などに直結させることは難しいようにおもいます。ですが、一旦抽象化し体系的に考えることには意義深いと思いました。


著者はテクノロジーの定義として下記の3点を用いています。
1. テクノロジーはすべて要素の組み合わせである
2. 要素それ自体がテクノロジーである
3. テクノロジーはすべて何らかの目的において現象(※)を利用している
※簡易的には「科学現象」と置き変えられます


端的に言うと「テクノロジーはある目的を達成するために、科学現象や既存テクノロジーの組み合わせで生み出されるもの」という感じです。



テクノロジーは静的なものではなく、動的平衡状態にあるものです。テクノロジーが進化するときは、何らかの目的達成への需要が存在します。テクノロジーを進化させるには、まずどんな問題を解決したいかを明確にすることが必要になる、と考えられます。ただし“目的達成への需要”を持っているのは必ずしも人間ではなく、テクノロジー自身のニーズであることもあります。


どのようなケースかというと、、、下記の三つがあるそうです。
a) テクノロジーが低コスト、高効率を求めるとき(改善が必要になる)
b)製造、生産、流通、維持管理し、業績を高める支援するテクノロジーが必要。
1900年代の自動車業界は、組み立てラインでの製造、舗装路、ガソリン、ガソリンスタンドなど副次的なニーズを築いた。
c)テクノロジーが引き起こす問題への対処。蒸気機関の前身は、1600年代のヨーロッパ鉱業で効率的な排水処理の必要性が生じた結果生まれた。

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過去を見ると、テクノロジーが進化すると経済は変革を起こし、両者が融合する形再調整のプロセスを経ます。この過程では新しいビジネスが生まれたり、政策、制度が変更されたり、商習慣が見直されたりします。また、一人一人の価値観も変わっていきます。このようなテクノロジーが社会・経済活動に浸透していく過程には数十年オーダーの時間がかかります。

・蒸気期間は1760年代に発明されたが、浸透したのは1820年
・電気モーター、発電機は1870年代に発明されたが、浸透したのは1910〜1920年
・マイクロプロセッサは1970年代に発明されたが、2010年代になっても浸透過程にある


先日読んだ”Makers”では、コンピュータテクノロジー進化が、製造業という社会システムに与えた影響の結果の一つで、まだまだ“経済の再調整”の過程にあると考えられます。
http://d.hatena.ne.jp/ushikubou/20130119/1358601244


また、「2100年の科学ライフ」でミチオ・カク氏が主張する「穴居人の原理」は(少なくとも一部は)、経済の再調整に長い時間がかかることで説明されるように思います。
http://d.hatena.ne.jp/ushikubou/20130106/1357449781

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過去に生み出されたイノベーションを議論する際、どのようなプロセスを経たかという話を見かけることが多いですが、何を解決したいのかを明確にすることが大事なのだと思います。世の中には多くの課題がありますが、自分が本気で取り組みたい課題は何なのか。その課題は人間が求めるものなのか、既存テクノロジーが求めるものなのか。このように大局的に捉えることも重要だと思いました。



テクノロジーとイノベーション―― 進化/生成の理論

テクノロジーとイノベーション―― 進化/生成の理論