Makersの衝撃

クリス・アンダーソン氏の”Makers”という本を読みました。著者は物理学を学んだ後、Nature誌とScience誌に勤務し、雑誌Wiredを立ち上げ編集長を務めていました。最近、Makersを書く元になったものづくり”3Dロボティクス”(ラジコン製作会社)に専念し、Wiredは辞めたようです。

これまでITの発展により、大手メディアだけではなく個人個人が世の中に情報発信出来るようになってきました。これからは、「ものづくり」も一個人や少数のコミュニティが行い、世界中に売ることが出来るようになる、ということです(既にこの動きは始まっているようです)。

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個人が情報発信出来るようになった要因は、ネットワーク網の発達とデジタル機器(PCや携帯電話など)の進歩によるところが大きいと思います。Google、Yahoo、Facebookなどのプラットフォームの存在も大きいと想像します。



「ものづくり」の民主化を支える要因として、
3Dプリンタやレーザーカッターなどの精度向上で安価にものを自作出来るようになったこと、
・ウェブ上でコミュニティを作り困っている課題を投稿すると解決策を得られること(いわゆるクラウド・ソーシング)、
・製造専門企業に簡単にアプローチし小ロットで部品の製造委託が出来る環境が作られたこと(アリババなどのプラットフォーム)、
・プロジェクトベースで資金を募る手法(クラウド・ファンディング)が確立され資金調達が容易になったこと
が挙げられています。


その結果、大きな製造設備や人員を持った大企業でなくても高度な「ものづくり」が可能となります。Appleのように製造を行わずコンセプト作りに特化する企業も一つの形態だと思います。


この変化の凄いところは、一人一人が欲しいものを欲しいだけ手に入れることが出来るようになる可能性を秘めていることだと思いました。仕様変更にかかるコストが低いので、極論すると一人一人が欲しいものに合わせて作り変えることが出来ます。これは非常に大きな変化で、クリス・アンダーセンは「第三の産業革命」と呼んでいます。(第一:モノを作る機械の産業革命、第二:情報革命、コンピューター革命、第三:デジタルと製造が融合した革命)


全てを小規模”Maker”が作るモノで賄うのは難しいので、これまでの大企業メーカーは無くなることはないと思います。一人一人がこだわるものは”Maker”から手に入れ、そうでもないものは大企業から手に入れる。相対的に”Maker”は高い付加価値を上げ、従来の製造企業は高い価格でモノを売りにくくなっていく可能性があります。

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このような世の中が到来した時に、どのような製造企業が生き残っていけるのでしょうか?
・製造に特化した企業:
卓越した技術でMakerの製造を受託する企業。ホンハイやTSMCのような企業でしょうか。
あるいは、小ロットで柔軟に対応出来る製造受託企業も出てくるかもしれません。
・大量消費する日用品を作る企業:
コカ・コーラやP & Gのような企業。
・Makersが作れないモノを作る企業:
3Dプリンタでは作れなかったり、部品組み立てでは作れない複雑なモノを作る企業。ぱっと思いつきませんが、化学反応を制御したりするモノ(どちらかというとアナログなモノ)を扱う企業でしょうか。

まだ答えは出ませんが、今後の世の中を考え自分がどのようになっていきたいか、を考える上で重要な内容だと思いました。


・クリスアンダーソン氏のインタビュー
http://diamond.jp/articles/-/30050
・クリス氏のTEDでのプレゼン:テクノロジーの進化に関して
http://www.ted.com/talks/lang/ja/chris_anderson_of_wired_on_tech_s_long_tail.html
・ニール・ガーシェンフェルドのTEDプレゼン:以前からデジタルによるモノ作り革命を実践していたMITの教授
http://www.ted.com/talks/lang/ja/neil_gershenfeld_on_fab_labs.html


MAKERS 21世紀の産業革命が始まる

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