経済危機のルーツ
ちきりんさんのブログに紹介されていた、
「経済危機のルーツ」野口 悠紀雄
を読みました。
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20110118
経済危機のルーツ ―モノづくりはグーグルとウォール街に負けたのか
- 作者: 野口悠紀雄
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2010/04/09
- メディア: 単行本
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著者の本は初めて読んだのですが、非常に洞察が深く新たな発見が多くありました。
特に、1970年代〜現代までの経済の構造変化をマクロ的な視点で俯瞰し、
読み解いている点は見事だと思いました。
たとえば、、、
●市場経済 vs 国家主義、社会主義
サッチャーは「新自由主義」をさまざまな言葉で表現しているが、「市場を代替するものはない」
(Tere is no alternative to market.⇒略:TINA)という表現が最も分かりやすい。
市場が完全というのではなく、社会主義経済や国営企業は市場の欠陥を是正する手段にはなりえない。
だから、やむをえず市場システムに依存するしかない、というのがTINAの主張である。
金融危機の後、「資本主義は間違っていた」という議論がありましたが、
資本主義が既に何十年も前から議論されていた内容であり、
20年前の西ドイツ・ソ連崩壊で決着した議論という認識です。
この辺りは、以前に読んだ「市場 対 国家」でも詳しく議論されていました。
市場対国家―世界を作り変える歴史的攻防〈上〉 (日経ビジネス人文庫)
- 作者: ダニエルヤーギン,ジョゼフスタニスロー,Daniel A. Yergin,Joseph Stanislaw,山岡洋一
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2001/11
- メディア: 文庫
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人間は忘れっぽいので、数年たつと昔のことは忘れてしまい、目の前で起きたことに
反射的に反応してしまいます。
将来を語るにあたり、過去を振り返り、まずは認識の出発点を確定させる必要があります。
●石油ショックの本質とインパクト
一般には石油ショックは「石油の価格が高騰した」と認識されているようですが、
石油価格 vs 金価格をプロットすると、概ね一定のレンジに収まっており、
石油価格は金価格と連動していると言えます。
つまり、石油価格が高騰したのではなく、
「ドルの価値が金や原油などの実物財に比べて低下する過程であった。」
と考えることが出来ます。
これは固定相場制→変動相場制へと変わる過程での必然的な現象、という捉え方です。
私は石油ショックを実際に経験していないので、いまいち実感が湧きませんが、
ロジックだけを追っていると「なるほど」と思ってしまいます。
また、日本やドイツが石油ショックを乗り越えた原因は、「企業努力や経営体系の特異性だ」
と言われていますが、この本によると本質は、
「日本とドイツの為替レートが増加したために原油価格上昇の高騰の影響が小さかった」
ということです。さらに、為替レートが増加する要因は生産性の高さですが、
何故日本とドイツの生産性が高かったか?
どちらも敗戦国であり、戦後ゼロベースで新しい技術を用いた向上を作ることが出来、生産性が高まった。
一方で戦勝国であるイギリスやアメリカは古い生産設備が残り、生産性が低かった。
というロジックです。すごく客観的にみるとそうなのかもしれません。
●世界の構造変化と金融危機のインパクト
世界の先進国では「脱工業化」が進んでおり、アメリカ(IT、金融)、イギリス(金融)ともに、
脱工業化に成功している。一方で、日本とドイツは製造業中心モデルから抜け出せていない。
脱工業化が進んだのは中国の工業化が進み、先進国はコストの安さでは太刀打ちできないから、ということです。
そして金融危機は輸出に頼る日本、ドイツに大きなインパクトを与えました。
今回の金融危機を一言で表現すると、「選別過程」ということです。
日本は海外に謙虚に学び、脱工業化を進めるべき、ということが提言のようです。
海外に謙虚に学ぶことは非常に重要だと思います。
一方で、日本の将来の繁栄の姿が金融とグーグルのようなモデルかというと、
私自身明確なイメージを持てていませんが、
「それはどうなんだろう」という気がしています。
汎用品の大量生産ではなく、中国には真似出来ないモノを作っていくパワーが、
まだまだ日本にはあると信じています(これはロジックではなく想いです)。