クリステンセン教授からの手紙


日経ビジネスオンラインに「クリステンセン教授からの手紙」という記事が掲載されていました。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20110601/220356/?rt=nocnt


ハーバードビジネススクール教授で「イノベーションのジレンマ」の著者です。優良企業は従来製品の改良を進める結果、全く新しい価値を生み出す(性能そこそこで滅茶苦茶安い、など)製品を武器にした新興企業にやられてしまうのは何故か?ということを考察した本です。優良企業が”正しく”判断すればするほど、イノベーションのジレンマに陥ってしまう、というのが面白い(?)ところです。


日経ビジネスの記事によると、クリステンセン教授は三年間に、心臓発作→ガン→脳卒中という大病を次々と経験しているそうです。いずれも深刻な病気で、助かったのも奇跡、現在も回復途中とのこと。

病気にかかってから、色々と悩み、考えた末にたどり着いたのが、
・自分のことばかり考えるのではなく、他人を思いやる気持を持つこと。そのことが自分の幸せに繋がっている
・他人に尽くすことを後回しにしてはいけない
ということでした。

昨日の平久保先生のお話と、共通する部分が多いです。
結局、自分のことばかり考えていても幸せにはなれないのでしょうか。


◆◆◆
クリステンセン教授の話は真理を突いていると思います。ただ、決して新しい話ではありません。昔から色んな人達が同じようなことを繰り返し言ってきています。

彼のような超エリートが、病気を経て言う言葉だからこそ共感を生み、なるほどなぁと思う人が(たぶん)多いのではないかと思います。
仮に彼が病気になる前に同じことを言っていたとしても、「成功者が言う”あがり”の言葉ではないか」と素直に受け取ってもらえない可能性が高いです。

一方で、私のような凡人が同じことを言っても、
「はいはい。そうですよね。でも、まずちゃんと仕事しようね。」
となってしまう(気がする)。


彼は「最も重要なことを後回しにしてはいけない」と言いいます。言われれば、「そうだよね」と思うのですが、いざ実践しようとすると難しい。
なぜなのでしょう?
頑張らないと置いていかれてしまうという恐怖感とプレッシャーの下、まずは自分が成功してから、という考えになってしまうのでしょうか。環境(Condition)によるものかもしれないし、性格やマインドセット(Set point)によるものかもしれません。


そうして何となく毎日を過ごしているうちに、気づけば後戻りできないことに気付くようになってしまうのでしょうか。そう考えると恐ろしいです。


クリステンセン教授が、このような手紙を書くにいたったのは「おわり」を痛烈に自覚したからかもしれません。


(引用)------------------------------------------
私の不幸の原因は自分自身のそうした自己中心的な考え方なのであって、自分自身を“復興”するプロセスを通して、幸福とは私利、私欲、私心を捨てることによって初めて手に入れられる心の安息なのだと気づいたのです。

(中略)
私たちは、人生において他人に尽くすことを後回しにすることができると考えがちですが、それは多くの人が犯す間違いです。そんなにうまくいかないのです。私が学生の時の同級生がそうでした。大学教授として教えている教え子たちもそうです。彼らはこんなふうに考えます。しばらくの間は自分自身の成功を目指してひたすら頑張ろう。「十分な財を成した」後に人生のギアチェンジをして、地元や家族に恩返しをするモードに入ろう──と。しかし、そういうことは(やろうとしたとしても)ほとんどの場合うまくいきません。

 もっとお金を稼ぎたい、もっと事業を拡大したい、もっと製品を売りたい──。そうした欲求には終わりがありません。あなたの人生において最も最優先すべきだと信じていることがあるのに後回しにすることを1度でもやってしまうと、物事の優先順位を正しく戻すことはとても難しくなってしまいます。「これが最後」とずるずると同じことを繰り返してしまうのが人間の性(さが)なのです。

(中略)

他人のことを慮ることによって、自分自身が多くの人たちに祝福されてきたこと、そのことを自分は見過ごしてきたことに気づくかもしれません。その気づきが、あなたの心の負担を軽くします。

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イノベーションのジレンマ 増補改訂版 (Harvard Business School Press)

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