「脳の構造」と「企業の組織構造」

先日、「単純な脳、複雑な私(池谷 祐二)」という本を読ました。高校生を相手に最先端の脳科学の知見を分かりやすく解説した講義を本に起こしたものです。とても刺激的な内容です。(高校生が指摘したり質問したりするレベルが高く驚きました。)

単純な脳、複雑な「私」

単純な脳、複雑な「私」

本の中で、脳はこんな小さいのに何故あんな複雑なことが出来るのか、ということを考察していました。

脳の神経細胞は「構造(シナプスの結合の仕方)」×「信号のゆらぎ」によって同調パターン(創発)を生み出し、様々な機能を発現しているのだそうです。個々の神経細胞は単純なルールに従って信号のon/offを行うだけなのに、“適切に”結合させると(意味のある)パターンを発現するとのことです。(この意味のあるパターンの結果が「意識」となるようです)。

また、「信号のゆらぎ」を活用することにより、カチッとしたヒエラルキー構造をとらなくても有効に機能するとのことでした。今の脳と同じような機能をヒエラルキー構造で実現しようとすると、莫大なサイズとエネルギーが必要となります。そのため「ゆらぎ」の活用により大幅にエネルギーコストを削減していると解釈出来ます。


一方で、BONDの組織行動論(MRO)の中で「ネットワーク組織」という概念に出会いました。従来のヒエラルキー型の組織とは異なり、共通の目的を持った個人や組織同士が弱い繋がりで繋がって形成される組織のことを指します。企業間の連携や、産学官連携などがあります。

http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/~wakaba/lecture/ntwk.html

たとえばシリコンバレーは「ベンチャーを生み出す」という共通の目的に向かって、複数の企業間の技術提携や、スタンフォード大学などとの産学連携を通じて一大ネットワークを形成しています。
また、PCメーカーのデルは顧客、社員、サプライヤーとネットワークを構築したことが強みになっていたそうです。
さらに、mixiFacebookなどのコミュニティもネットワーク組織と捉えることが出来るでしょう。


このようなネットワーク組織は、多様な個人や組織が関わり合い、知識の交流が生じるため新しい発見が生まれやすいとのことでした。単純に言うとネットワーク組織は、従来のヒエラルキー型組織と比べて「イノベーション」を生み出しやすい組織形態と言う事が出来ます。(今のような競争の激しい社会で企業が生き残っていくには「イノベーション」を起こし続けることが必要であり、そのためネットワーク組織への注目が集まっているとのことでした)。

ヒエラルキー型組織でイノベーションを起こしていくには、トップが先を読み常に適切に指示を出していくことが必要になります。一方で、ネットワーク組織では一人一人が自主的に行動をして他者と関わり合う結果、新しい知識が生まれイノベーションが生まれる可能性が高くなります。そしてイノベーションを生み出すためのエネルギーコストは、(ヒエラルキー型組織と比べて)圧倒的に少なくて済むと予想できます。

ネットワークを形成することで、一つ一つの要素(脳:シナプス、企業:個人)はある意味シンプルな働きをしていても、多様性が生まれ、低エネルギーで意味のある結果を生み出すという点が非常に似ていると感じました。
アナロジーを更に進めると、、、脳の神経細胞は「適切に」ネットワークを構築することが必要でした。企業組織においてもイノベーションを起こすには、「適切な」参加者を選び、「適切に」ネットワークを構築することが重要であるかもしれません。


「脳の構造」と「企業の組織構造」。物理的なサイズも異なり、質的にも異なるものに共通点があるのが興味深いなぁ、と思いました。